未婚の男女にアンケートを採ると、結婚相手に求める条件として、「愛情」や「優しさ」が上位にランクされます。もちろん、婚姻生活は、相互の愛情と思いやりが基本であることは間違いありません。しかし、交際中に相手方が見せた「愛情」や「優しさ」の真実は、実は結婚しなければ分からないものです。愛情深く優しいところに惹かれて結婚したものの、結婚後にその愛情と優しさはいびつなものだったと知ることになるかもしれません。
DV(ドメスティック・バイオレンス)という言葉は、定義づけられた法律用語ではなく、人によって、様々な意味で使われます。たとえば、夫婦喧嘩の際にたまたま声が大きくなっただけで「DVだ」という人もいます(ときには弁護士でも、準備書面にそのようなことを書いてくる人もいます)が、なんでもかんでもDVと言ってしまっては、本当に深刻なDV被害を見失うことになってしまいかねません。 私は、「DV」は、配偶者などに暴力や虐待を加えて、人格的に支配しようとする行為だと考えています。もちろん、夫婦喧嘩の中でたまたま大声で暴言を吐いたとか、エスカレートして手が出てしまったというような暴力も到底認められるものではありませんが、10年に及ぶ結婚生活の中で一度だけ手を上げたような一過性の暴力と、継続的に暴力や虐待を加えて配偶者の人格を支配しようとする行為とは本質的に異なります。
DV事件の難しさのひとつは、加害者の支配欲が、いびつな形であるにせよ「愛情」の表れであり、また、往々にして加害者側が暴力をふるった後に優しく振る舞ったりすることなどから、被害者側が「この人は私のことを愛してくれている。」「本当は優しい人なんだ。」「私が悪いんだ。」「私がいなければ、この人は駄目なんだ。」などと思い込み、DVの連鎖を断ち切れないことにあります。また、親兄弟など周辺の人が「DVではないか」と感じていても、当事者が気づいていないことも多々あります。
「DVは、治らない。」と言う人もいますが、私は必ずしもそうではないと思っています。本人が自身の問題点を理解し、精神科医や臨床心理士が指導するDV加害者更生プログラムを受けることで改善されることはあるでしょう。しかし、問題は、「DV加害者は、加害者であることを認めない。」ことにあります。私はこれまで、おそらく一般的な弁護士よりもずっと多くのDV事件を手がけてきましたが、その中で、加害者がDVを認めたのは、たった2件だけです。ほとんどのケースでは、「DV加害者は、加害者であることを認めない。」と考えてよいでしょう。
私の経験上、DV加害者には執着心、嫉妬心、猜疑心が強く、ものごと、特に金銭勘定に異常に細かい傾向があるようです。もし、あなたの交際相手や配偶者にそのような傾向があると感じたときは、親兄弟などの親戚や信頼できる友人・知人に相談をして、第三者の目で、婚姻生活を続けていくべき相手か、結婚すべき相手かを見てもらってもよいでしょう。
私は、基本的に、離婚問題は当事者間の問題であり、親兄弟などが口を出すべきではないと考えていますが、ことDV事件に関しては、本人が躊躇しているのであれば、周辺の人たちが積極的に関わって、本人にDVであることを理解させ、1日も早く、暴力から逃れさせることが必要です。その上で、行政機関や警察への相談と併せて弁護士に依頼をして、接近禁止などを命ずる保護命令を申し立てて安全を確保し、離婚調停、訴訟と進むことになります。
その先の手続についても書かなくてはならないのですが、長くなりましたので、今回はここまでにして、続きは、次の機会に述べることにします。
その愛情と優しさは、DVかも!?
2016.03.13更新