弁護士コラムCOLUMN

2016.03.26更新

 昨日、2人の死刑囚の死刑が執行されたと法務省から発表された。

 現在、私が刑事事件を受任するのは、年に2件程度だが、新米弁護士の頃は刑事事件を熱心にやっていた。その中で、一度だけ、国選で、死刑事件の弁護をしたことがある。今は、弁護士数が激増し、国選弁護事件は取り合いのような状態にある。しかし、私が弁護士登録した当時は、国選弁護は報酬が低額に過ぎるため、厄介な事件は引き受け手がなかった。そのような場合、弁護士会から引き受けてくれそうな弁護士に対して、「国選弁護を引き受けてくれ」と個別に依頼をしていた。

 私がまだ駆け出しの頃のある日、弁護士会の国選弁護の担当者から「引き受け手のない事件の国選弁護をしてくれないか」と電話があった。事件の内容を聞いてみると、「最高裁での死刑事件」とのこと。その当時、熱心に刑事事件の弁護に取り組んではいたとはいえ、死刑事件で、しかも上告が棄却されると死刑が確定することになるから、尻込みした。それでも、弁護士会の担当者に「ベテランの先生と一緒にやっていただきますから」と説得され、結局引き受けることになった。

 その時引き受けた死刑事件の被告人が、昨日死刑執行が発表された鎌田安利だった。

 高等裁判所での裁判を担当した大阪の弁護士から、裁判の記録を送ってもらったところ、段ボール箱が山ほど届き、経験の浅かった私は、記録の量に圧倒された。起訴されたのは5件のバラバラ殺人と1件の窃盗。一審では窃盗は無罪となったものの、5件の殺人は有罪が認定され、死刑。控訴審では、窃盗が有罪とされ、5件の殺人の有罪も維持され、死刑。被告人は、起訴された犯罪事実を否認し、上告した。

 最高裁での弁護を一緒にやっていただくことになったベテランの弁護士は、大学教授で、刑事訴訟法の専門家のN先生であった。学校の先生に対してアレルギーのある私は、「怖い先生だったらどうしよう」とびくびくしていたが、お会いしてみると、小柄な年配の穏やかな先生であった。

 ある日、被告人から手紙が届いた。もちろん事件のことについての言い分が書いてあったが、それよりも私の目を引いたのは、2週間分の献立がびっしりと書かれていたことだった。その後も、被告人からは、献立が書かれた手紙が何通か送られてきていた。

 最高裁では、憲法違反、事実誤認、情状などフルコースで主張したが、上告は棄却され、死刑判決が確定した。被告人との連絡は、N先生にお願いしていたから、私は直接被告人と会うことはなかったが、N先生が死刑判決の確定を被告人に告げるときの気持ちはどうだったかと想像すると、私も胸が苦しくなる。

 死刑制度の是非については、さまざまな議論があるが、世論調査などによると、死刑制度を支持する人が圧倒的に多く、死刑廃止は少数派である。
 死刑制度によって凶悪犯罪が減少するわけではないという研究はある。一方、刑罰は、被害者に代わって国家が報復するという側面もあるから、被害者や遺族の気持ちを考えると軽々に死刑廃止を唱えることもできない。死をもって償うべき罪は絶対にある。しかし、それでは、裁判が間違っていた場合はどうなのか、死刑が執行されれば取り返しのつかないことになるのではないか・・・そのように考え始めると、頭の中で議論は堂々めぐりをし、死刑制度をどう考えるか結論が出せないというのが、正直なところである。

 判決確定から10年以上を経て、ついに死刑が執行された。

 自己否定になってしまうが、判決が間違っていたとは思わない。
 証拠上、有罪認定はやむをえないものでしたし、死刑制度がある以上、死刑以外の刑は選択の余地はなかった。
 このあたりは、理解してもらえないことも多いのだが、個人的に、「被告人は有罪であり、死刑以外にない」と考えるところがあったとしても、被告人が罪を否認し、刑を受け入れないというのであれば、「被告人は無罪」であり、「死刑制度は憲法違反である」と主張すること、それが弁護人の仕事なのだ。

 鎌田は、あの後も献立を記録し続けていたのだろうか。そうだとすれば、一食を得ることで、まだ生きているという実感を得ていたのかも知れない。

 裁判所に証拠として提出された写真には、ひどく損壊された被害者の死体が写っていた。今でも脳裏に焼き付いている。被害者の恐怖や苦痛、怨みのを考えると、鎌田の冥福を祈ることはできない。あの世でも裁きを受けてもらうしかない。

 しかし、「袖振り合うも多生の縁」というから、私も何かの因縁で鎌田と関わりを持ったのだろう。せめて、鎌田が人に転生することがあるならば、「この次の人生こそは、真人間として生を全うしてくれ」と祈る。

解決への第一歩を。

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